2023年12月4日月曜日

日本近代文学会東北支部2023年度冬季大会/東海支部第75回研究会  合同開催

2023/12/20変更版掲載

※プログラムが一部変更となりました。

 開始時間には変更ありません。

◆日時:2023年12月23日(土)13時~17時 

◆会場:仙台市青葉区川内27-1

東北大学川内南キャンパス文学部第一講義室

◆開催形態:対面(+東海支部会場とオンライン中継)


◆プログラム

運営委員会(11:30~12:30)

東北支部2023年度冬季大会/東海支部第75回研究会 (13:00~17:00)

※受付 12:45~

■開会の辞 東北支部長 井上諭一

■研究発表

◯13時05分~14時00分

飯野向日葵(東北大学大学院文学研究科博士課程前期1年)

発表題目:海野十三における蠅―生体と機械の境界撹乱―

コメンテーター:小松史生子(金城学院大学)

◯14時10分~15時05分

久永うらら(金城学院大学大学院文学研究科後期課程国文学専攻1年)

発表題目:科学者の光と闇――森鷗外「魔睡」論――

コメンテーター:井上諭一(弘前学院大学)

◯15時15分~16時10分

片 鐘煥(ピョン・ジョンファン 名古屋大学大学院 人文学研究科博士後期課程 1年)

発表題目:遠藤周作の『深い河』に関するエコクリティシズム的考察

コメンテーター:渡部裕太(福島工業高等専門学校)

■閉会の辞 東海支部長 宮崎真素美


◆発表要旨

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◯飯野向日葵(東北大学大学院文学研究科博士課程前期1年)

発表題目:海野十三における蠅―生体と機械の境界撹乱―

発表要旨:

海野十三は、「恩恵と迫害の二つの面を持つのが当今の科学だ」という認識のもと、多くの科学小説を発表した。そのなかで、人造人間やサイボーグを描き、人間と機械の境界の揺らぎを描いた。また、「電気鳩」「青い兵隊蜂」「じんぞうねこ」のような動物ロボットも描き、動物と機械をも結びつける。このような発想には、機械技術の進歩や戦争を背景としながら、海野の人間と技術への分析的なまなざしと、科学のあり方を問い直す姿勢が表われている。これら人間と動物に加え、海野の小説において繰り返し描かれる存在が蠅である。蠅は、機械と結びつくだけでなく、さまざまなかたちで生体と機械との境界を撹乱するものとして現れる。

本発表では、「蠅」を手がかりとして「俘囚」「蠅男」への連関、「ふしぎ国探検」への接続を明らかにする。このような「蠅」の変奏のなかで、科学技術の用い方や蠅と人間の関わりを分析することを通じて、海野の小説における生体と機械の境界撹乱の様相を探る。

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◯久永うらら(金城学院大学大学院文学研究科後期課程国文学専攻1年)

発表題目:科学者の光と闇――森鷗外「魔睡」論――

発表要旨:

 本発表では森鷗外「魔睡」(1909)を対象に、妻を媒介にして、磯貝医師が大川博士に対し間接的に催眠術を施すというテクスト構造に注目したい。本作は磯貝が大川の妻に催眠術を施し、凌辱した疑いが語られる短編小説であり、先行研究では抑圧された〈性〉を顕在化させる装置としての催眠術という解釈がなされてきた。

 一方、催眠術を介した、大川と磯貝という二人の科学者を表裏一体の人物として語るテクスト言説のありようは、大川を信頼できない語り手に変化させる。その叙述は当時の科学言説の通俗化を背景にした〈語り=騙り〉の戦略性をうかがわせ、後の夢野久作「ドグラ・マグラ」(1935)などに見られる〈狂気の語り〉の流行を遠く用意するものであったのではないだろうか。

 本発表は鷗外「魔睡」において催眠術がおよぼすテクスト構造への影響を、科学/疑似科学を語る当時の言説場の分析と絡めつつ、物語の〈語り〉の系譜という視点で考察する。

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◯片鐘煥(ピョン・ジョンファン 名古屋大学大学院 人文学研究科博士後期課程 1年)

発表題目:遠藤周作の『深い河』に関するエコクリティシズム的考察

発表要旨:

戦後日本のカトリック文学を代表する作家遠藤周作の最後の純文学書き下ろし長篇小説である『深い河』の根底には「母なる神の河」が流れている。本発表では、このような神聖なる河に対して自然を大切にした遠藤の思想に基づき「エコクリティシズム」からの考察を試みる。また、「深い河」と共鳴した二人の人物、これまで「人生」より「生活」を追求してきた中年男性磯部と、虚無感に苦しむ愛の種火のない女性美津子のベナレスへの旅路に着目し、「失われた愛を求めて」いる彼らにとって「深い河」の意味は何なのかを分析する。『深い河』はヒンドゥー教の聖地ベナレスを舞台にし、そこでのキリスト教とその信者の物語を描く作品である。このように複数の宗教的観点が含まれている本作品の特徴、すなわち「宗教多元主義」的要素をエコクリティシズム的アプローチを通じて明らかにし、自然との共存と人間の相互理解を求めた遠藤の最後のテーマを究明する。

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